社員のエンゲージメントを高めたい。
そう考えたとき、1on1や社内イベント、表彰制度、福利厚生など、新しい施策を検討する企業は少なくありません。
もちろん、こうした取り組みに意味がないわけではありません。
ただ、エンゲージメントが高い会社を見ていくと、特徴は特定の制度の有無だけでは説明できません。
同じ1on1を実施していても、上司と部下が率直に話せる会社もあれば、単なる進捗確認になっている会社もあります。
同じ評価制度でも、自分の仕事がきちんと見られていると感じる人もいれば、評価基準が分からず不信感を抱く人もいます。
つまり、重要なのは「何を導入しているか」だけではなく、社員が日々の仕事のなかで会社との関係をどのように感じているかです。
エンゲージメントが高い会社には、どのような共通点があるのでしょうか。
代表的な特徴を整理しながら、自社について考えるための視点を探っていきます。
エンゲージメントが高い会社は、「会社が好き」だけでは説明できない
エンゲージメントという言葉は、「会社への愛着」や「従業員満足度」と同じ意味で使われることがあります。
しかし、本来は少し異なります。
たとえば、給与や福利厚生に満足していて、「この会社は居心地がいい」と感じていたとしても、それだけで仕事に主体的に取り組むとは限りません。
一方で、会社の目指す方向を理解し、自分の仕事とのつながりを感じながら、「自分もこの会社をより良くしていきたい」と考えている状態があります。
エンゲージメントを考えるうえでは、こちらの関係性に目を向ける必要があります。
経済産業省の「人材版伊藤レポート」で引用されている考え方でも、エンゲージメントは、企業が目指す姿や方向性を従業員が理解・共感し、その実現に向けて自発的に貢献しようとする意識として整理されています。
また、「未来人材ビジョン」では、個人と組織の成長の方向性が連動し、互いに貢献し合える関係としても表現されています。
つまり、エンゲージメントが高い会社とは、社員を会社に強く結びつけている会社というより、会社と社員がお互いの期待や目的を理解しながら働けている会社、と考える方が近いでしょう。
そこで重要になるのが、「会社は社員に何を求めるか」だけでなく、「社員はこの会社で何を得られるのか」という視点です。
理念への共感を求めるのであれば、会社も社員に対して成長機会や働く意味、適切な評価などを提供する必要があります。
エンゲージメントは、一方的に「高めてもらうもの」ではありません。会社と社員の関係のなかで育っていくものです。
エンゲージメントが高い会社に見られる4つの特徴
では、具体的にどのような環境がエンゲージメントにつながるのでしょうか。
第一に挙げられるのが、「自分の仕事の意味が分かること」です。
企業理念やパーパスが掲げられていても、社員が日々の仕事とのつながりを感じられなければ、単なるスローガンになってしまいます。
「会社は何を目指しているのか」
「そのなかで、自分の部署は何を担っているのか」
「自分の仕事は誰に、どのような価値を生んでいるのか」
こうした線がつながっていると、目の前の仕事を単なる作業としてではなく、目的を持った仕事として捉えやすくなります。
第二の特徴は、「自分の役割や期待が分かること」です。
何を求められているのか分からない状態では、自分なりに努力しても、それが正しい方向なのか判断できません。
目標や役割、評価基準などが共有されていることは、社員が主体的に動くための土台になります。
第三は、「対話とフィードバックがあること」です。
Gallupは、エンゲージメントに関係する仕事体験として、良い仕事への承認、成長への支援、意見が尊重されること、上司などとの継続的な対話などを挙げています。
また、チームのエンゲージメントにはマネジャーが大きな影響を与えるとしています。
ここでいう対話は、上司が一方的に評価や指示を伝えることではありません。
「最近どう感じているか」
「仕事で困っていることはないか」
「どんなことに挑戦したいか」
社員自身の考えを聞き、それを仕事や役割に反映する機会があることが重要です。
第四は、「成長している実感があること」です。
役職が上がることだけが成長ではありません。
できる仕事が増える、新しい領域を任される、自分の強みが分かる、以前より良い仕事ができる。
こうした小さな変化も成長です。
エンゲージメントが高い会社では、社員が自分の仕事を振り返り、「この会社で働くことで、自分も前に進んでいる」と感じられる機会がつくられています。
施策を増やしても、エンゲージメントが高まるとは限らない
エンゲージメント向上というテーマでは、「どんな施策を実施すればいいか」に意識が向きやすくなります。
たとえば、1on1、社内表彰、社員交流イベント、研修、社内報、エンゲージメントサーベイ。
どれも使い方によっては有効な取り組みです。
ただし、施策そのものがエンゲージメントを生むわけではありません。
1on1を導入していても、本音を話せない。
サーベイを実施していても、その後何も変わらない。
理念を発信していても、経営陣の判断と一致していない。
表彰制度があっても、評価される人がいつも同じ。
こうした状態では、「会社は自分たちの声を聞いている」「自分の仕事を見てくれている」という感覚はむしろ薄れてしまう可能性があります。
実際、パーソル総合研究所が2026年に公表した従業員サーベイに関する調査では、回答者の45.9%が「回答しても変化を感じない」としています。
サーベイを実施するだけではなく、結果をどう受け止め、その後の行動につなげるかが問われていると考えられます。
だからこそ、施策を考える前に確認したいのは、「自社では、社員がどこで会社との距離を感じているのか」です。
理念との距離なのか。
上司との関係なのか。
評価への納得感なのか。
キャリアへの不安なのか。
仕事そのものの意味が見えなくなっているのか。
原因によって、必要な打ち手は変わります。
他社で成功した施策をそのまま導入するよりも、自社の社員がどのような体験をしているかを見つめることが、エンゲージメント向上を考える出発点になります。
「社員をどう動かすか」ではなく、「どんな関係をつくるか」を考える
自社のエンゲージメントについて考えるときは、スコアだけを見るのではなく、社員の日常を思い浮かべてみると状況が見えやすくなります。
社員は、自分に何が期待されているか理解できているか。
自分の仕事が会社や顧客にどうつながっているか分かっているか。
意見を言ったときに、きちんと受け止めてもらえるか。
良い仕事をしたとき、それが誰かに認識されているか。
失敗や課題について率直に話せるか。
この会社で働くことで、自分が成長していると感じられるか。
すべてを完璧に満たしている会社は、おそらく多くありません。
また、社員によって求めているものも異なります。
成長機会を重視する人もいれば、仕事の裁量を重視する人、チームとの関係性を重視する人もいます。
だからこそ、エンゲージメント向上を「社員を会社にもっと好きになってもらう施策」と捉えると、少し窮屈になります。
むしろ考えたいのは、社員と会社の間にどのような関係をつくるのかということです。
会社の目指す方向を伝える。
社員が感じていることを聞く。
期待する役割を伝える。
仕事への貢献を認める。
成長したい方向について話す。
そして、必要であれば会社側も変わる。
そうした往復が積み重なることで、「ここで働く意味」と「自分がこの会社に関わる意味」が少しずつ結びついていきます。
エンゲージメントが高い会社の特徴を探すことは、優れた制度を探すことではありません。
自社では、社員と会社がどのような関係を築けているのか。その関係をより良くするために、何が足りないのか。
まずはそこから考えてみることが、エンゲージメント向上の第一歩になるのではないでしょうか。
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