1on1ミーティングを導入したものの、「毎回同じような話になる」「話すことがなくなってきた」「結局、業務の進捗確認で終わってしまう」と感じている企業は少なくありません。
そこで質問集を用意したり、管理職向けに傾聴の方法を共有したりすることもあります。
もちろん、そうした工夫が役立つ場面もあります。
しかし、1on1の形骸化は、単に会話の技術や話題の不足だけから起こるとは限りません。
そもそも何のために1on1を行うのか。
その時間を誰のために使うのか。
日常の業務コミュニケーションとは何を変えるのか。
進め方を考える前に、一度その前提から整理してみる必要があります。
1on1が形骸化するのは、「話すことがない」からではない
1on1が続かなくなると、「話題がないこと」が問題として捉えられがちです。
けれど、話題がないこと自体が問題なのではありません。
むしろ、「この時間を使って何を考えればよいのか」が上司と部下の間で共有されていないことのほうが、大きな要因になり得ます。
たとえば、上司は「悩みを聞く時間」だと思っている一方、部下は「仕事の報告をする時間」だと思っている。
人事は「キャリア形成につなげたい」と考えているものの、現場では業務の進捗確認だけが続いている。
このように1on1という同じ言葉を使っていても、その目的が人によって異なっていることがあります。
すると、「最近どう?」「困っていることはない?」という質問に対して、部下が「特にありません」と答えれば、その先の会話が続きません。
質問の種類を増やしても、根本の認識が揃っていなければ、やがて同じ状態に戻ってしまいます。
まず考えたいのは、1on1によって何を直接的に解決するかではなく、「普段の仕事のなかでは話しにくいことや、立ち止まらないと考えにくいことを扱う時間」として、どのような役割を持たせるかです。
仕事への違和感を言葉にする。
最近できるようになったことを振り返る。
仕事の意味を捉え直す。
今後挑戦したいことを整理する。
自分だけでは解決しづらい問題について、必要な支援を考える。
こうした対話が生まれるのであれば、毎回特別なテーマを用意する必要はありません。
「話題を用意すること」よりも、「何について考えるための場なのか」が共有されていることのほうが、1on1を続けるうえでは重要です。
進捗確認・評価・対話を、ひとつの時間に詰め込みすぎない
1on1が形骸化するもうひとつの背景として、さまざまな役割を1on1に持たせすぎているケースがあります。
業務の進捗を確認する。
目標達成について話す。
悩みを聞く。
キャリアを考える。
コンディションを確認する。
人間関係について相談する。
これらをすべて一度の1on1で扱おうとすると、限られた時間のなかでは、どうしても緊急度の高い業務の話が優先されます。
特に気をつけたいのが、「業務管理の時間」と「本人が考える時間」の混同です。
進捗確認では、上司が知りたい情報を聞くことが中心になります。
一方、1on1で本人の内省や成長を支えたいのであれば、部下が考えたいテーマを中心に置く必要があります。
どちらも必要なコミュニケーションですが、目的は異なります。
評価との距離についても同様です。
上司が評価者である以上、部下がどんなことでも率直に話せるとは限りません。
「この発言が評価に影響するのではないか」と感じれば、当然、話す内容を選ぶようになります。
だからこそ、「何を話しても大丈夫」と伝えるだけではなく、1on1で扱う内容をどこまで評価や人事判断に結びつけるのか、どのような情報は別の場で扱うのかといった境界を考えておくことが重要です。
1on1を特別な場にする必要はありません。
ただし、通常の業務ミーティングと何が違うのかが曖昧なままでは、時間が経つほど日常の仕事の話に吸収されていきます。
「この時間では何を扱い、何を扱わないのか」
それを決めることも、1on1の設計のひとつです。
形骸化を防ぐ進め方は、「質問集」より対話の流れをつくること
では、実際の1on1ではどのように進めればよいのでしょうか。
毎回固定した質問を順番に聞く必要はありませんが、対話の大きな流れを持っておくと、単なる雑談や進捗確認になりにくくなります。
たとえば最初に、「今日は何について話したいか」を本人に聞きます。
すぐにテーマが出てこなければ、「最近うまくいったこと」「少し引っかかっていること」「今後やってみたいこと」など、いくつかの入口を示すだけでも十分です。
テーマが出てきたら、すぐに上司が解決策を提示するのではなく、その背景を一緒に整理します。
「何が一番気になっているのか」
「なぜそう感じたのか」
「理想の状態と、今は何が違うのか」
「自分で変えられそうなことは何か」
「周囲からどんな支援があると進みそうか」
こうした問いは、正しい答えを引き出すためのものではありません。
本人が頭の中にあるものを整理するための補助線です。
上司が経験豊富であるほど、「それならこうすればいい」と答えを示したくなることもあります。
しかし、毎回上司が解決策を出していると、1on1が「上司に答えをもらう時間」になる可能性があります。
相談内容によっては具体的な助言が必要です。
一方で、本人が自分なりの考えを持っているのであれば、すぐに答えを渡さず、一度その考えを聞いてみる選択肢もあります。
最後に、「今日話してみてどうだったか」「次に何を試してみるか」まで整理して終えると、次回の1on1にもつながります。
前回の内容を次回に少し振り返れば、一回ごとの会話が点ではなく線になります。
頻度についても、一律の正解を決める必要はありません。
たとえば、環境が大きく変わった時期には短い間隔で話し、状態が安定していれば間隔を広げる。経験の浅い社員と、自律的に仕事を進めている社員で頻度を変える。
そのような調整も考えられます。
大切なのは「毎週実施したか」ではなく、その頻度が本人と組織の状況に合っているかです。
1on1を続ける目的は、「良い面談をすること」ではない
1on1を制度として運用すると、実施率や回数を確認したくなります。
もちろん、実施状況を把握することには意味があります。
しかし、実施率が高いからといって、必ずしも1on1が機能しているとは限りません。
反対に、毎回深い話ができなければ失敗、というわけでもありません。
「今日は特に話すことがなかった」という回があってもよいでしょう。
短い雑談で終わることもあります。
重要なのは、何かあったときに話せる関係があること。
そして、本人が仕事について考えたいときに、立ち止まって言葉にできる場所が継続して存在していることです。
そのため、1on1を見直すときは、「ちゃんと実施できているか」だけではなく、受け手の側から確かめる視点も必要です。
「自分の話をする時間になっているか」
「話したことで、考えが少し整理されるか」
「困ったときに相談できそうだと感じるか」
「上司から答えをもらうだけの時間になっていないか」
こうした問いから振り返ると、質問の仕方だけでは見えなかった課題が見つかることがあります。
1on1を形骸化させないために必要なのは、新しい質問集を追加し続けることではありません。
目的が曖昧になっていないか。
業務報告や評価と混ざっていないか。
上司ばかりが話していないか。
実施すること自体が目的になっていないか。
一度そうした前提を確認したうえで、「この時間が自社のメンバーにとって、何を考える時間であればよいのか」を決めていく。
1on1は、制度として完成させるものというより、組織や人の変化に合わせて調整し続けるコミュニケーションの仕組みとして捉えたほうが、長く機能させやすくなります。
株式会社カラビナでも、組織や人材に関する課題を整理しながら、1on1を含む社内コミュニケーションの設計や、企業らしい言葉への落とし込みを支援しています。
