企業理念はある。ミッションやビジョンも定めている。
それでも、自社が何を大切にしている会社なのか、ひと言ではうまく説明できない。
そんなときに考えたいのが、ブランドメッセージです。
理念をただ短くするのではなく、伝わる言葉へ変えていくには、何を整理すればよいのでしょうか。
ブランドメッセージは、理念を「短くする」ものではない
ブランドメッセージをつくろうとすると、まず「企業理念を短い言葉にまとめよう」と考えがちです。
しかし、理念を短くすればブランドメッセージになるわけではありません。
企業理念やパーパス、ミッション、ビジョン、バリューなどは、それぞれ名称や定義に違いはあるものの、企業が「何のために存在するのか」「どこを目指すのか」「何を大切にするのか」を示すものです。
一方でブランドメッセージは、そうした企業の考えを、社員や顧客、求職者、取引先、社会などとの接点に置いたとき、どんな言葉として届けるかを考えるものです。
つまり、
「私たちは何を大切にしているか」
という企業側の視点だけでなく、
「私たちは、あなたや社会に対してどんな存在でありたいのか」
まで視点を広げてみる必要があります。
たとえば「挑戦を大切にする」という価値観を持つ企業は少なくありません。
しかし、「挑戦」という言葉をそのままブランドメッセージにしても、その会社ならではの姿はまだ見えてきません。
なぜ挑戦するのか。
誰のために挑戦するのか。
これまで、どんな挑戦をしてきたのか。
その結果、世の中にどんな変化を生み出したいのか。
そこまで掘り下げていくことで、理念に書かれた抽象的な言葉が、その企業固有の意味を持ちはじめます。
ブランドメッセージを考える最初の仕事は、きれいな言葉を探すことではありません。
まずは、自社がすでに持っている考えの意味を、もう一度問い直すことです。
言葉をつくる前に、「事実・価値観・未来」を整理する
ブランドメッセージの検討では、早い段階からコピー案を出すよりも、その前に材料を集めたほうが考えやすくなります。
整理しておきたいのは、大きく「事実」「価値観」「未来」の3つです。
まず「事実」。
自社はこれまで何をしてきたのか。
どんな商品やサービスを提供しているのか。
顧客から何を評価されているのか。
社員は日々、どんな判断をしているのか。
ブランドは、言葉だけで成立するものではありません。
実際の事業や行動との間に距離がありすぎると、どれだけ魅力的なメッセージでも実感を持ちにくくなります。
次に「価値観」です。
同じ事業を営む会社でも、仕事に向き合う姿勢は異なります。
効率より丁寧さを優先する会社もあれば、既存の方法を疑い続ける会社もある。
技術を磨くことを大切にする会社もあれば、人との関係を何より大事にする会社もあります。
普段は当たり前すぎて言葉になっていない判断の基準に、その会社らしさが潜んでいることがあります。
そして「未来」。
これから、どんな会社になりたいのか。
顧客や社会に、どんな変化をもたらしたいのか。
10年後にも変わらず大切にしていたいものは何か。
過去と現在だけでブランドメッセージをつくると、単なる会社紹介になりやすくなります。
反対に未来だけを語ると、実態のない理想論に見えてしまうことがあります。
「これまでやってきたこと」
「いま大切にしていること」
「これから実現したいこと」
この3つが一本の線でつながるところを探してみる。
その中心にあるものが、ブランドメッセージの核になる可能性があります。
「正しい言葉」より、「この会社が言う意味のある言葉」を探す
材料が揃ったら、いよいよ言葉にしていきます。
この段階で起こりやすいのが、「誰にも反対されない言葉」にまとまっていくことです。
「未来を創る」
「人と社会に貢献する」
「新しい価値を提供する」
「豊かな暮らしを実現する」
どれも間違った言葉ではありません。
むしろ、多くの企業に当てはまるからこそ、社内でも合意を得やすい言葉です。
ただし、ブランドメッセージとして考えた場合には、もう一つ確認したいことがあります。
「その言葉を、自社が言う理由があるか」です。
たとえば「未来をつくる」と表現したいのであれば、自社にとっての「未来」とは何なのかを考えてみます。
技術によって、これまで不可能だったことを可能にする未来なのか。
地域で暮らし続けられる未来なのか。
働く人がもっと自分らしくいられる未来なのか。
一段具体化するだけで、同じ「未来」という言葉でも意味は大きく変わります。
ブランドメッセージでは、珍しい言葉を使うことが必ずしも重要なのではありません。
一般的な言葉であっても、その会社の歴史や事業、行動と結びつくことで固有の意味を持つことがあります。
候補を考えたら、
「競合企業がそのまま使っても成立しないか」
「社員が自分たちの仕事と結びつけて説明できるか」
「顧客から見た自社の価値と大きくずれていないか」
「数年後も掲げ続けられそうか」
といった視点から眺めてみると、判断しやすくなります。
コピーとして格好いいかどうかだけではなく、「この会社が言うから意味があるか」。
ブランドメッセージを選ぶときには、この問いが一つの基準になります。
完成した言葉より、「使われ続ける言葉」を目指す
ブランドメッセージは、決定した瞬間に完成するものではありません。
コーポレートサイトのトップページに掲載したり、会社案内や広告に載せたりするだけでは、その言葉が企業のブランドになるとは限らないからです。
社員が仕事について話すとき。
営業担当者が顧客へ会社を説明するとき。
採用担当者が求職者に自社の魅力を伝えるとき。
経営者がこれからの事業について語るとき。
さまざまな場面で同じ考え方が繰り返し現れていくことで、ブランドメッセージは少しずつ企業の実態と結びついていきます。
そのため、メッセージを決めるときには「伝わるか」だけでなく、「使えるか」まで考えておくことが大切です。
社員が読んだときに、「自分たちの仕事のことだ」と感じられるか。
新しい事業を判断するときに、方向を示す言葉になり得るか。
採用や広報など、異なるコミュニケーションでも展開できるか。
こうした問いに答えられる言葉であれば、ブランドメッセージは単なるキャッチコピーではなく、企業の判断やコミュニケーションをつなぐ役割を持ちはじめます。
もちろん、一つの言葉ですべてを説明する必要はありません。
むしろ、ブランドメッセージには、少し説明の余地が残っていてもよいのではないでしょうか。
「これは、どういう意味ですか」と聞かれたときに、自社の歴史や仕事、これから実現したいことについて話せる。
その会話の入口になることも、ブランドメッセージの役割です。
理念を伝わる言葉にすることは、単に文章を短くする作業ではありません。
自社が何者なのかをあらためて見つめ、何を社会に約束したいのかを整理し、それを人との間に置ける言葉へ変えていくことです。
だからこそ、最初から「いいコピーをつくろう」と考えなくてもかまいません。
まずは、自社が日々当たり前に行っていることや、譲れない判断、これから実現したい未来を並べてみる。
その中に、すでにブランドメッセージの種となる言葉があるかもしれません。
株式会社カラビナは、企業の理念や事業、社員の声を整理しながら、その会社らしいブランドメッセージの言語化やブランドコミュニケーションの設計を支援しています。
