「組織開発に取り組もう」
そう聞いたとき、何を思い浮かべるでしょうか。
1on1を始める。
管理職研修を行う。
組織サーベイを導入する。
社内イベントを増やす。
ミッション・ビジョン・バリューを浸透させる。
どれも、組織開発の文脈で語られることのある取り組みです。
ただし、これらを実施することと、組織開発をすることは、必ずしも同じではありません。
「組織開発」という言葉は意味する範囲が広いからこそ、いつの間にか「組織を良くするために行う施策全般」という意味で使われることがあります。
その結果、何のために取り組むのかが曖昧なまま、施策だけが先行してしまうこともあります。
では、そもそも何を「開発」することが、組織開発なのでしょうか。
組織開発は、「組織を良くする施策」の名前ではない
公益財団法人日本生産性本部によると、組織開発とは、個人と組織、あるいは組織同士の関係性を高めることで、チームのパフォーマンス向上につなげる取り組みとして説明されています。
ここで重要なのは、特定の施策について述べているわけではないということです。
たとえば、ある会社で「部署間の連携が悪い」という問題が起きているとします。
そこで部署横断の交流会を開けば、組織開発になるのでしょうか。
交流会によって互いの仕事内容がわかり、相談や情報共有が増え、仕事の進め方まで変わったのであれば、組織に何らかの変化が生まれたと言えるでしょう。
交流会自体は盛り上がったものの、翌日から仕事に戻ればこれまで通り。
それなら、イベントは実施したものの、組織に起きている問題にはほとんど働きかけられていない可能性があります。
つまり、「何を実施したか」だけでは、組織開発かどうかを判断しにくいのです。
実際、組織開発の施策としては、1on1、マネジャー研修、ミッション・ビジョンの浸透、組織サーベイ、チームビルディングなど、非常に幅広い取り組みが行われています。
だからこそ、「組織開発=1on1」「組織開発=研修」と考えるのではなく、その施策によって、組織のどこにどのような変化を起こそうとしているのかを見る必要があります。
「人を育てること」とも、「仲を良くすること」とも少し違う
もうひとつ混同されやすいのが、人材開発です。
人材開発では、社員一人ひとりの知識やスキル、能力を高めることが主な対象になります。
一方、組織開発では、人と人、部署と部署、個人と組織といった「関係」にも目を向けます。
たとえば、優秀な社員を集めても、必ず優秀なチームになるとは限りません。
情報が一部の人にしか共有されない。
困っていても相談できない。
部署ごとに目標が異なり、互いに協力する理由がない。
上司の発言によって会議の結論がほぼ決まってしまう。
一人ひとりの能力とは別のところで、組織の成果を妨げるものは生まれます。
組織開発が扱うのは、こうした「人と人の間で起きていること」でもあります。
ただし、ここから「では、人間関係を良くすればいい」と考えてしまうのも少し違います。
コミュニケーションが活発で、社員同士の仲が良い。
それ自体は望ましいことかもしれません。しかし、組織は何らかの目的を達成するためにつくられています。
仲が良くても、必要な議論を避けてしまう組織はあります。
心理的安全性を重視するあまり、互いに厳しいフィードバックをしなくなることもあるでしょう。
大切なのは、「雰囲気が良いか」だけではありません。
その関係性が、組織の目的や事業の前進につながっているか。
組織開発を考えるうえでは、この視点を外さないことが重要です。
施策を探す前に、「いま、この組織で何が起きているか」を見る
組織に課題を感じたとき、私たちはすぐに解決策を探したくなります。
「エンゲージメントを高める施策は?」
「社内コミュニケーションを活性化する方法は?」
「1on1を導入したほうがいいのでは?」
もちろん、他社の取り組みを知ることは判断材料になります。
ただ、組織開発では、施策を選ぶ前の「見立て」が重要になります。
近年の組織開発の解説でも、「研修や制度を導入すること自体を組織開発と捉えてしまうこと」は典型的なつまずきとして挙げられています。
たとえば、「若手から意見が出ない」という同じ現象でも、背景は会社によって違います。
そもそも発言する機会がないのかもしれない。
発言しても採用されない経験を重ねてきたのかもしれない。
上司との関係に問題があるのかもしれない。
失敗を避ける評価制度になっているのかもしれない。
あるいは、若手自身が事業の方向性を十分に理解できていないのかもしれません。
原因が違えば、必要な働きかけも変わります。
1on1が必要な会社もあれば、会議の進め方を変えるほうが効果的な会社もあるでしょう。
評価制度を見直す必要があるかもしれませんし、経営から発信するメッセージを整理することが先かもしれません。
そこで、施策を考える前に、少なくとも次の三つを分けて考えてみると、自社の状況を整理しやすくなります。
事業や組織として、どのような状態を実現したいのか
現在、その実現を妨げているのは何か
人と人、部署と部署、制度と行動の間で、どのようなことが起きているのか
「コミュニケーション不足」「エンゲージメントが低い」といった言葉で止めず、その奥にある具体的な現象まで見ていく。
そこから初めて、必要な働きかけが見えてきます。
組織開発とは、「良い組織の正解」を入れることではない
組織開発という言葉からは、どこか「未完成な組織を、完成された組織へ近づける」という印象も受けます。
しかし、すべての企業に共通する「良い組織」の形があるわけではありません。
スピードを重視する組織もあれば、慎重な合意形成が重要な組織もあります。
個人の裁量を大きくしたほうが成果につながる会社もあれば、部署間の緊密な連携が欠かせない会社もあります。
求める組織のあり方は、事業や戦略、規模、成長段階によって変わります。
だから、組織開発を考えるときに最初から「どんな施策を取り入れるか」を決める必要はありません。
むしろ、
「私たちは、どんな組織でありたいのか」
「その状態と、いまの組織にはどんな差があるのか」
「なぜ、その差が生まれているのか」
という問いを持つところから始めてもよいのではないでしょうか。
組織サーベイも、1on1も、研修も、社内イベントも、理念浸透も、それ自体が目的ではありません。
組織の状態を知り、そこで起きていることについて当事者同士で考え、必要な変化を試し、また状態を見る。
その循環の中に、施策があります。
「組織開発をしなければ」と考えるより先に、「いま、自分たちの組織では何が起きているのだろう」と考えてみる。
その問いを持てること自体が、組織を変えていく最初の一歩なのかもしれません。
株式会社カラビナは、企業や組織の「らしさ」と現在地を整理し、理念や社内コミュニケーション、採用などの領域を通じて、組織が目指す姿を言葉と体験にしていくブランディングを支援しています。
