「求人広告を出しているけれど、思うような応募が集まらない」「応募はあるものの、自社が求めている人材とは少し違う」。
そんな状況から、採用ブランディングに関心を持つ企業もあるのではないでしょうか。
ただ、「採用ブランディング」という言葉は少し曖昧です。
採用サイトをつくることなのか、SNSで発信することなのか、求人広告を工夫することなのか。
具体的に何を指しているのかわかりにくい面があります。
採用ブランディングを理解するうえで、まず押さえておきたいのは、求人広告と採用ブランディングはどちらか一方を選ぶものではないということです。
求人広告が「募集していることを伝え、候補者との接点をつくる」役割を担うのに対して、採用ブランディングは、その前提となる「自社は働く場所として、どのような価値を持つ会社なのか」を整理していく取り組みです。
両者の違いを整理すると、自社の採用活動でいま何が不足しているのかも見えやすくなります。
採用ブランディングとは、「働く場所としての自社」を整理すること
採用ブランディングとは、求職者や候補者に対して、自社で働くことの価値や自社らしさを整理し、一貫した形で伝えていく取り組みです。
たとえば、同じ業界で、給与や勤務地などの条件も似ている2社があったとします。
それでも求職者がどちらか一方を選ぶとすれば、そこには条件だけでは説明できない理由があるはずです。
「若手のうちから仕事を任せてもらえそう」
「専門性を深められそう」
「この会社の人たちと働いてみたい」
「仕事に対する考え方に共感できる」
こうした認識も、企業を選ぶ判断材料になります。
採用ブランディングでは、企業理念や事業内容、仕事内容、組織文化、社員の価値観、キャリア、働く環境などを整理し、「自社で働くことには、どのような意味や価値があるのか」を明確にしていきます。
ただし、魅力的に見せることだけが目的ではありません。
たとえば「裁量が大きい」という特徴は、自分で考えて動きたい人には魅力ですが、細かな指示や教育体制を求める人には不安材料になる可能性があります。
「変化が多い」「少数精鋭」「個人の責任が大きい」といった特徴も同様です。
大切なのは、誰から見ても魅力的な会社を演出することではなく、「どんな人にとって、どんなところが魅力なのか」を整理することです。
採用ブランディングは、企業をよく見せるための活動というより、自社と候補者の間にある「選ぶ理由」を明確にする活動と考えるとわかりやすいでしょう。
求人広告との違いは、「何を伝えるか」と「どう届けるか」
求人広告と採用ブランディングの違いは、その役割から考えると整理しやすくなります。
求人広告では一般的に、募集職種、仕事内容、給与、勤務地、勤務時間、福利厚生、応募資格など、求職者が応募を検討するために必要な情報を伝えます。
求人媒体などを通じて求職者との接点をつくり、応募につなげていくことが主な役割です。
一方、採用ブランディングでは、「なぜこの会社で働くのか」という、より根本的な部分を考えます。
整理すると、次のような違いがあります。
採用ブランディング
・目的:働く場所としての自社の価値や選ばれる理由を整理する
・時間軸:中長期
・考えること:誰に、どのような会社として認識されたいか
・扱う内容:企業の価値観、仕事の意味、文化、働く人、キャリア、自社ならではの特徴など
求人広告
・目的:募集情報を届け、応募への接点をつくる
・時間軸:比較的短期
・考えること:募集情報を誰に、どの媒体で、どのように届けるか
・扱う内容:仕事内容、募集条件、給与、勤務地、福利厚生、選考情報など
ただし、実際の採用活動では両者は明確に切り離されているわけではありません。
採用ブランディングで整理した内容は、求人広告にも反映できます。
たとえば、単に「法人営業募集」と掲載する場合でも、自社の営業職について深く掘り下げてみると、「商品を売る仕事」ではなく、「顧客と一緒にまだ見えていない課題を見つける仕事」という特徴が見えてくるかもしれません。
その違いが整理できれば、求人広告で伝える仕事内容や社員紹介、キャッチコピーも変わります。
つまり、採用ブランディングは求人広告に代わる施策というより、求人広告を含むさまざまな採用コミュニケーションの「軸」をつくるものだと捉えることができます。
求人広告を増やす前に、「どこに課題があるのか」を考える
採用がうまくいかないとき、「求人広告の露出を増やそう」「別の媒体にも掲載しよう」と考えることがあります。
もちろん、そもそも求人情報が候補者に届いていないのであれば、接点を増やすことは重要です。
一方で、問題が認知ではなく、その先にあるケースもあります。
たとえば、求人広告は閲覧されているのに応募されない場合。
企業名を検索されているのに採用サイトから離脱されている場合。
応募は集まっているものの、自社が求める人材とずれている場合。
内定を出しても、他社を選ばれてしまう場合。
こうした課題は、広告の露出量だけでは説明できません。
候補者から見て「この会社を選ぶ理由」がわかりにくいことや、求人広告、採用サイト、会社説明会、面接などで伝えている内容に一貫性がないことも考えられます。
ここで採用ブランディングの視点が役立ちます。
まず考えたいのは、「自社の魅力は何か」だけではありません。
「どんな人に来てもらいたいのか」
「その人は転職・就職先を選ぶとき、何を重視するのか」
「その人にとって、自社で働く価値はどこにあるのか」
「競合する企業と比べたとき、何が違うのか」
「入社後に実際に提供できる価値なのか」
こうした問いを一つずつ整理していきます。
ここで重要なのが、最後の「実際に提供できるか」という視点です。
採用メッセージとして魅力的でも、入社後の実態と異なっていれば、長期的には採用ブランドを弱める可能性があります。
社員へのヒアリングやインタビュー、応募者から寄せられる声、入社理由、退職理由などを確認しながら、企業側が伝えたい魅力と、実際に働く人が感じている価値の両方を見ることが必要です。
採用ブランディングは、コピーを考えるところから始まるのではなく、そのコピーの根拠となる「事実」を探すところから始まります。
採用ブランディングと求人広告は、どちらが必要なのか
では、自社には採用ブランディングと求人広告のどちらが必要なのでしょうか。
これは、採用活動のどこに課題があるかによって変わります。
そもそも募集していることが知られていないのであれば、求人広告やスカウトなどを通じて候補者との接点を増やすことが優先されるでしょう。
一方、「求人を見てもらえているのに応募につながらない」「応募者の志望理由が弱い」「求める人材とは違う層からの応募が多い」「媒体ごとに伝えている会社像が違う」といった状態であれば、採用ブランディングの視点から一度整理してみる余地があります。
そして、多くの場合、この二つは組み合わせて考えることになります。
採用ブランディングで「誰に、何を伝えるか」を整理し、それを求人広告や採用サイト、社員インタビュー、SNS、説明会、面接などの接点へ展開する。
逆に、求人広告への反応や面接での候補者の声から、「自社が想定していた魅力は本当に伝わっているのか」を検証し、採用ブランドそのものを見直すこともできます。
採用ブランディングは、一度コンセプトやキャッチコピーを決めれば完成するものではありません。
事業が変われば、求める人材も変わります。
組織が変われば、そこで働く価値も少しずつ変化します。
採用市場や候補者の価値観も一定ではありません。
だからこそ重要なのは、「採用ブランディングをやるべきか、求人広告を出すべきか」という二択ではなく、自社の採用活動のどこに課題があるのかを見極めることです。
知られていないのか。
知られているけれど、魅力が伝わっていないのか。
魅力は伝わっているけれど、求める人とずれているのか。
応募はあるけれど、選考や内定承諾で離脱しているのか。
課題の場所が違えば、必要な打ち手も変わります。
求人広告は候補者と出会うための重要な接点です。
そして採用ブランディングは、その接点で「何を伝えるのか」を考えるための土台になります。
まずは求人広告を増やすことでも、採用サイトをつくり直すことでもなく、「自社は誰に、どんな理由で選ばれたいのか」を言葉にしてみる。
その問いから始めることで、自社に必要な採用活動が少しずつ見えてくるはずです。
株式会社カラビナは、企業や組織の中にある「働く価値」を整理し、採用コンセプトの設計から採用サイト・パンフレットなどのコミュニケーション制作まで、採用ブランディングを支援しています。
