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ミッション・ビジョン・バリューが形骸化する理由

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ミッション・ビジョン・バリューが形骸化する理由

「掲げたはずの言葉」が、なぜ動かなくなるのか

ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を策定したとき、多くの組織には確かな手応えがあったはずです。

時間をかけて言葉を選び、経営陣で議論し、時に外部の力も借りて磨き上げる。完成した瞬間には、これで組織の背骨ができた、という感覚があります。

ところが半年、一年と経つうちに、その言葉は少しずつ日常から遠のいていきます。会議で引用されることは減り、新しく入ったメンバーは「そういえば入社時に聞いた気がする」程度にしか覚えていません。

壁に貼られたバリューは、いつしか風景の一部になっていきます。

これが「形骸化」と呼ばれる状態です。

ただ、ここで一度立ち止まって考えたいのは、形骸化は失敗の証なのか、という問いです。

言葉そのものが悪かったのか、運用が続かなかったのか、あるいはそもそも「浸透」という言葉の捉え方に無理があったのか。

原因を一つに決めつける前に、いま何が起きているのかを分けて見る必要があります。

形骸化という一語は、実はかなり多くの異なる状態をまとめて呼んでいるのです。

形骸化は「一つの現象」ではない——三つの断層で整理する

「MVVが浸透しない」と語られるとき、その内側には異なる問題が同居していることが多いものです。

ここでは三つの断層に分けて眺めてみたいと思います。

一つ目は、言葉と実感のあいだの断層です。

理念の文言は整っているものの、日々の業務で感じている現実と結びついていない状態を指します。

「挑戦を大切にする」と掲げながら、現場では失敗が許されない空気がある。

このズレがある限り、言葉は建前として処理され、口にするほど白々しさが増していきます。

二つ目は、言葉と行動のあいだの断層です。

理念には共感しているけれど、それを具体的な行動にどう翻訳すればいいのかがわからない。

バリューが抽象的なまま置かれ、「で、明日から自分は何をすればいいのか」が示されていないケースです。

共感と実践のあいだに、橋がかかっていません。

三つ目は、言葉と制度のあいだの断層です。

評価、採用、意思決定といった仕組みが、掲げた理念とは別の論理で動いている状態を指します。

バリューでは協働を謳いながら、評価は個人の成果だけで決まる。

こうなると、社員は言葉ではなく制度のほうを信じます。

仕組みは、理念よりもずっと雄弁にメッセージを伝えてしまうからです。

同じ「形骸化」でも、どの断層でつまずいているかによって、打つべき手はまるで変わってきます。

ここを見ないまま対策に走ると、労力の向き先を間違えやすくなります。

自社はどこでつまずいているのか——見極めるための視点

自社の状況を整理するには、「浸透していないという結果」ではなく、「どの断層で止まっているのか」に目を向けると輪郭が見えてきます。

いくつかの角度から眺めてみましょう。

まず、言葉が生まれた文脈が共有されているかです。

MVVは、たいてい経営陣の議論のなかで、固有の背景を持って選ばれます。

ですが、その「なぜこの言葉なのか」という文脈が抜け落ちると、受け取る側には結論だけが届きます。

文脈のない言葉は、暗記の対象にはなっても、判断の拠り所にはなりにくいものです。

次に、日常のなかに言葉が呼び出される瞬間があるかです。

理念は、掲げるだけでは動きません。

採用の合否を議論するとき、事業の方針を決めるとき、迷いが生じたときに「これは自分たちのバリューに照らしてどうか」と問い直される——そうした呼び出しの回数が、言葉の生死を静かに分けています。

そして、言葉を変えるべきか、運用を変えるべきかを切り分けられているかです。

事業のフェーズが変われば、かつての言葉が現実に合わなくなることもあります。

その場合に必要なのは浸透施策ではなく、言葉自体の見直しかもしれません。

逆に、言葉は妥当でも運用が伴っていないだけなら、文言をいじっても問題は場所を移すだけです。

この切り分けを曖昧にしたまま「とりあえず作り直す」と、数年後に同じ場所へ戻ってくることになりやすいのです。

これらは、正解を出すためのチェックリストではありません。

自社がどこで止まっているのかを、自分たちの言葉で語れるようにするための視点です。

言葉を「運用するもの」として捉え直す

形骸化の背景をたどっていくと、根にあるのは「MVVは作れば完成するもの」という前提であることが多いように思います。

ですが実際には、理念は作った時点がスタートであり、日々の判断のなかで参照され、時に問い直され、必要なら更新されていく——つまり、運用され続けるものです。

この捉え方に立つと、形骸化は「防ぐべき失敗」というより、「運用が途切れたサイン」として読めるようになります。

壁の言葉が風景になったのなら、言葉が悪いのではなく、呼び出す機会が減ったのかもしれません。

現実とのズレを感じるのなら、それは更新のタイミングを知らせているのかもしれません。

大切なのは、形骸化を前にしたときに、「もう一度作り直す」か「浸透をもっと頑張る」かの二択で急がないことです。

まず、自社がどの断層でつまずいているのかを見極める。

そのうえで、言葉の問題なのか、翻訳の問題なのか、制度の問題なのかを切り分ける。判断の順番を一つ持っているだけで、打ち手の精度は大きく変わってきます。

MVVは、掲げた瞬間よりも、掲げたあとに何度その言葉へ立ち返れるかで価値が決まっていきます。

形骸化という入り口から、自社の言葉と組織の関係を、あらためて見つめ直してみてください。

株式会社カラビナは、組織の課題を浮き彫りにする取材力を起点に、企業の理念やバリューを「掲げて終わらせない」言葉とコミュニケーションへと翻訳し、その浸透と運用の設計を支援しています。

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