インナーブランディングとは
インナーブランディングは、社員向けのブランディング活動
昨今、働き方の多様化やミレニアル世代の登場、グローバル化やSDGsへの関心の高まりなど、時代が大きく変化する中で、多様な価値観を持つ社員をひとつに束ね同じ方向を向かせることが容易ではなくなりました。そのような状況下で、社員たちがそれぞれに「働く喜び」を感じ、自らの所属する職場や組織を愛し、誇りに思う気持ちを育む取組みは、ますます重要視されています。それが、社内向けのブランド価値を高める「インナーブランディング」の役割です。
経営者と社員の間では、時に仕事への意識やモチベーションに差が出ることがあります。このギャップを埋めるため、「目的」と「理念」を見直し再確認し、理念に沿った行動指針をあらためて伝えます。そうすることで、社員のやる気や誇りを高め、自律心と団結力を兼ね備えた組織を作り上げることができます。このような「インナーブランディング」は、企業が長期にわたって存続を考える上で、非常に大切な取り組みと言えます。
アウターブランディングとの違い
一般的な「ブランディング」とは、外部向けに行うブランディング活動のことを指しています(アウターブランディング・エクスターナルブランディングとも言います)。広告のメッセージやパッケージデザインなどを通して、その企業の商品やサービス、価値観、顧客体験を統合した全体のイメージをプロデュースする活動です。
このブランディングに何より大切なのは、自社のブランドについて社員が、誇りを持って社外に語れることです。ブランドのイメージは、内外で統一されたものであることが非常に重要です。アウターブランディングの成功には、継続的なインナーブランディングの活動が欠かせないのです。
インナーブランディングが必要な企業とは
インナーブランディングが必要な企業・組織とは、どういった状態にあるのでしょうか。実際に悩みや疑問を抱えた経営者・管理職の方々のカラビナへのご相談には、下記のような例があります。
「ロイヤリティ・愛着が足りない」
社員の、自社に対する帰属意識や誇らしさが欠如している状況を指します。社員が自社の製品やサービス、企業文化に対してポジティブな感情を抱けておらず、場合によってはこれが定着率の低さや離職率の高さとして現れます。原因としては、トップからの魅力的なメッセージ発信がない、仕事内容や労働環境が競合企業と比較した際に魅力が薄い、中途採用を強化したことによりロイヤリティの低い社員が増えてしまった、などが考えられます。
そもそも人事的な施策を見直すことも大切かもしれませんが、自らがこの会社に所属できて嬉しい、この会社の目指す世界を一緒に実現したいなどの「誇り」を持てるブランドを自社が保有しているか?それを社内外に伝達できているか?の見直しなどが必要です。
「ミッション・ビジョン・理念などの浸透が足りない」
自社のミッション・ビジョン・理念やパーパスなどが社員に適切に伝わっておらず、社員の自律的な判断や行動に支障をきたしている状態です。原因としては、経営層と現場の間にコミュニケーションの機会や接点が少ない、企業規模が大きくなりすぎて経営層が社員一人ひとりの意識まで把握するのが難しくなった、方向性を示す理念はあってもそれが細かい行動指針などに分解されておらず現場の業務に反映できない、などが考えられます。
経営層が視座の高い言葉で語る未来や戦略は、そのままの言葉だと現場の社員には「難しい」「自分には関係のない、遠い世界の話だ」と思われてしまいかねません。外部向けのブランディングと一貫性を持たせながら、社員が「自分ごと化」できるような、ポジティブでわかりやすいメッセージをつくり浸透させることが大切です。場合によっては、覚えやすくスローガン化するなど広告クリエイティブの手法を使うことも効果的です。
「経営・事業方針を転換した」
市場環境の変化や事業の再編などにより、企業の方向性が変わる事はあるでしょう。その際、これまでのミッション・ビジョン・理念では新たな方向性をカバーできず、メッセージの変更が必要になる場合があります。
場合によってはミッション・ビジョン・理念などをあらためて作り直す、向こう10年・20年など耐用年数の長いブランドコアを設定し直す等も必要になるかもしれません。その後、社内外に新しいブランドを浸透させるブランディング活動を行います。
インナーブランディングの効果・メリット
理解が上がることによる自律性や生産性向上
「仕事」にはストレスがつきものですが、自らが「何のために、誰のために働いているのか」を納得できている状態と、そうでない状態とでは、ストレスの感じ方が違います。仕事に対する意欲が高く、前向きな社員ほど、「自分は何のために働いているのか」「この企業は世の中にどのように貢献しているのか」を理解し、納得して働きたいと考えています。企業の理念・ミッション・ビジョンなどを理解しそれに共感できれば、社員自らがそれを体現する方法を自律的に考えるようになるでしょう。クレドカードなどを利用し行動指針も併せて浸透させることで、個々の業務において判断に迷うシーンでも、指針を参考に社員が自ら決断・行動できるようになり、結果として企業全体の目指す成果が上がりやすくなります。
社員の定着率の向上、改善
一般的な退職の理由としても上位に入るのが「会社の将来性に不安を感じた」というものです。日々の業務の中で「この企業の将来は明るい」と社員に感じてもらうには、トップ層からの魅力的なメッセージにより「この会社は社会に必要とされている」「世の中の問題を解決しており、まだまだ伸びていく」と実感できることが大切です。インナーブランディングは社員を安心させ、「この会社に所属し続けたい」という気概を保ち続けるための施策といえます。
適切な人材採用が可能に
インナーブランディングが行き届いた企業では、新卒採用の際によく行われるOB・OG訪問や説明会においても、自社について上手にアピールすることが可能です。自社に共感や愛着を持ち、誇りに思っている社員たちは、就職活動中の学生や中途採用の応募者から見ても眩しく魅力的に映るものです。そのような社員たちが「自社が何者か」を社内外に語ることにより、応募者数が増えるだけでなく、現在の活躍社員と価値観の近い人材に出会える確率も確実に上がります。
アウターブランディングにも良い影響が出る
スターバックスコーヒージャパンのHPには、Values(=行動指針)として「私たちは、パートナー、コーヒー、お客様を中心とし、Valuesを日々体現します。」と掲げられています(同社HPより引用)。ショップでの優れた接客や、高いクオリティのドリンクと空気・雰囲気作りを支えるパートナーこそが、彼らのブランドであり競合優位性だと自覚し、行動指針でも明言し、すべての中心においているのです。
インナーブランディングを徹底する企業は、内部の社員が考える自社のブランドと、外部に表出するイメージが一貫しています。インナーブランディングを徹底すると、その企業の魅力は社員を通し、お客様や社会に自然と伝わっていきます。