ビジョンは「ミッション・ビジョン・バリュー」のうちのひとつ
「ミッション・ビジョン・バリュー」は、「マネジメント」の始祖ともいわれるピーター・F・ドラッガーが提唱しました。ドラッガーはその著書の中で、企業には「存在意義」が欠かせないこと、すなわちミッション・ビジョン・バリューを持つことの大切さを説いています。これを宣言することで、企業の思いが伝わり、ファンや支援者、共鳴者が増えていきます。また社員へのインナーブランディングの効果もあります。
では「ミッション・ビジョン・バリュー」は、なぜ3つに分かれているのでしょうか。それぞれの違いが理解できるよう、定義についてご説明します。
ビジョン=未来。「企業が目指す世界観」
Visionの語源はView、直訳すると「展望」です。自分たち企業が存在することで、将来的に実現したい社会像・会社像について言語化したものを指します。
もっと簡単に言うと、「10年後、その企業がどんな風になっていたいのか?」を示したものと言えます。しっかりとビジョンを宣言することで、消費者は企業に安心感や好感を持ちますし、社員は将来像がイメージでき、前向きに仕事に向き合えることでしょう。このようにビジョンは、「未来志向」で考えることが肝要です。
また、ビジョンは自分たちの未来についてのみ述べるのではなく、「どんな社会にしていきたいのか?」という社会像も含んでいます。その企業が存在することで結果的に社会がより良くなる、と約束することこそが「ビジョン」なのです。
「ビジョン」によって、社員が「こんな未来が描けるんだ!」というワクワクや、期待感を醸成できることが大切です。目に見えてイメージできることが望ましいため、例えば「絵(ビジュアル)」や「映像」などでビジョンを表現する企業も多くなっています。
ミッション=今。「企業が果たすべき使命」
Missionの語源はキリスト教由来のもので、直訳すると「天啓」「使命」です。
簡単に言うと「具体的にやること」です。未来のビジョンを実現するため、私たち(社員)が「今」やるべきことはこれです、と宣言する内容が「ミッション」です。ビジョンのみだと、どうしても「絵に描いた餅」のようになってしまいますが、ミッションによってそれを具体的な行動に落とし込むのです。 「ミッション」は、社員にとって「このように判断・行動すればいい」という明確な指針になっている必要があります。そのため「ミッションステートメント(企業の行動指針)」という形で、宣言文のように表現されることが多くなっています。
ビジョン・ミッションは、形式にこだわる必要はない
ビジョンを「世界観の提示」、ミッションを「使命の宣言」と整理し具体化することで、企業が向かうべき方向がより鮮明になります。ただし、必ずしも「ビジョンとミッションの両方がないとダメ」など、あまり形式にこだわる必要はありません。どちらかのみをハッキリと提示することで、企業の存在意義や行動指針を表現できている企業もあります。ミッションやビジョンの策定は、「会社のルール」のさらに上位概念を決めることと言えます。様々な法律の上に憲法がある、と同じようなものと考えてください。社会の中で経営者の持つ志や、これまで企業が大事にしてきた価値観を、強く内外に伝えられているかが最も重要です。
バリュー=その企業らしさ。「価値観、美意識、スタンス」
Valueの語源は、力があると言う意味のvalare、直訳すると「価値」です。何に価値を置くか、簡単に言うとその企業「らしさ」だと捉えてください。
ビジョンやミッションを「どんなふうに」実現するか。それは企業によって千差万別です。バリューは漠然としていて捉えにくい単語ですが、ここにその企業「らしさ」が現れると言っても過言ではありません。企業には、人間と同じように個性があります。創業から長い歴史をかけて培ってきた「価値観」、それこそがバリューなのです。
そのため、バリューは例えば「誠実に」「常に想像的に」など、「どんなふうに」を示すワードであることが多くなっています。これを社内外に宣言することで、同じような価値観を持った人間が集まりやすく、個性を作りやすくなります。バリューが組織文化を作り、結果的にその企業が強くなっていくのです。自分たちが「当たり前」と思っていることでも、言語化して社内外に伝えることで、良い相乗効果が生まれるでしょう。
ではここまでの定義を元に、それぞれの違いを端的にまとめてみましょう。
ビジョンとミッションの違い
ビジョンは「未来の世界観の提示」、ミッションは「今の使命の宣言」です。
ビジョンとバリューの違い
ビジョンは「目指したい世界観」、バリューは「どんなふうに目指すか?の価値観」です。
ミッションとバリューの違い
ミッションは「使命、具体的にやること」、バリューは「どんなふうにやるか?の価値観」です。
ビジョンの例とは?有名な企業のビジョン・ミッション・バリュー
TOYOTA
■ビジョン
可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える
■ミッション
わたしたちは、幸せを量産する
■バリュー
トヨタウェイ
-ソフトとハードを融合し、パートナーとともにトヨタウェイという唯一無二の価値を生み出す。
ビジョンには、「可動性」=可動の量と質を上げ、人だけでなく企業や自治体など大きな規模の集団が「できること」を増やす、とあります。車という方法論に限らず「可動」によって、人と地球の共生を実現しながら、より良い未来を作っていくことを宣言しています。ミッションは、人の幸せについて「考え」、それを「量産する」という、具体的な行動を促す内容になっています。また、バリューの「トヨタウェイ」には、人(社員)と装置とパートナーを大切に、というトヨタ独自の価値観・カルチャーについて書かれています。
リクルート
■ビジョン
Follow Your Heart
■ミッション
まだ、ここにない、出会い。
より速く、シンプルに、もっと近くに。
■バリュー
新しい価値の創造/Wow the World
個の尊重/Bet on Passion
社会への貢献/Prioritize Social Value
ビジョンは、「あなたはあなたの心に従え」という意味の言葉になっています。人生のキーとなるタイミングに多くの選択肢があることで、一人ひとりがより自分らしく生きられる未来を生み出せると宣言しています。ミッションは、速くシンプルに身近にそれらの選択肢を「提供する」という行動について述べています。バリューは、「変わり続けることを楽しもう」「個の情熱に投資する」「社会の不を解消したい」など、リクルートらしさ・スピリットの言語化とも言える内容となっています。