ここではミッション、ビジョン、バリュー(MVV)、それぞれの意味や作成方法、その効果や浸透策についてご紹介していきます。企業はミッション、ビジョン、バリューなどの理念体系をまとめることで、自社が目指す方向が明らかになるなど、組織や経営に与えるメリットは多数あります。一方で、どの会社でも言えるような、ミッション、ビジョン、バリューになってしまうと、むしろ社員を迷わせてしまったり、企業への尊敬を薄めてしまったりするケースもあります。経営戦略とも密接に絡みながら、自社の目指すべき方向性やどのように社会に価値を返すかを定義していくミッション、ビジョン、バリュー。自社らしい価値を磨き上げることで、企業の成長に寄与する効果を生み出していきたいものです。
ミッション、ビジョン、バリューの意味とは
ミッション、ビジョン、バリュー(Mission,Vision,Value)とは、いわば企業価値の根幹、企業が運営する事業サービスを通して、どのような社会を生み出すのか、どのような信念を持つのかを言語化したものです。ミッションは企業の果たすべき役割=使命や天命。ビジョンは描きたい世界観や志、夢。バリューは、その二つを実現するための価値・行動スタンスなどと捉えることができます。また、もともと日本には「社是」や「理念」という言葉があり、創業の際に創業者が自分の考えや姿勢を言語化し、社員に向けたメッセージとして掲げてきた経緯があります。このように、かつては社是や理念と括っていたものを、時代感覚に合わせてまとめ直しグローバルにも通用しやすいよう整え直したものが、ミッション、ビジョン、バリューだと考えても大きく間違ってはいません。ただ、明治や大正、昭和期などの古い時代に掲げられている社是は、あくまで創業者個人のスタンスを示したものが多く、やや精神論に見えたり抽象的、時代に即していないなどの課題もあります。過去からつながる社是や理念などを持つ企業では、その中心的な考え方や価値観を見つめ直し、今の時代に合うような戦略性やエッセンスなどを加味し、社員や取引先、求職者など、誰が見ても一定の理解ができるよう体系立てたものをミッション、ビジョン、バリューとして落とし込むことも有効です。
ミッション、ビジョン、バリューを簡単に説明すると
ミッション、ビジョン、バリューを簡単に説明すると、その企業の本質とも言える「価値観」や「作りたい世界観」「社会貢献の方向性」などを明確にすること。経営戦略との整合性も必要で、同じような事業を行う企業を鑑みながら、自社ならではの付加価値や「あえて自社だから、取り組む価値のあること」「企業が大切にする信念が、いかに社会の課題解決に役立つか」を整理していく活動。ミッション、ビジョン、バリューを整理し、社内外に周知させていくことで、商品やサービスだけでは見えてこない企業の思いが伝わり、その企業のファンや支援者、共鳴者が増えていくメリットがある。従業員へのエンゲージメントや採用にも、良い影響を与えることが多い。
ミッションの意味とは?ビジョンと何が違うの?
ミッション、ビジョン、バリューと、一口にいうものの、多くの方が、ミッションとビジョンの違いとは何か?さらに、ミッションとパーパスの違いとは何か?と戸惑ってしまうのではないでしょうか。そもそも、ミッションは、英語でMission。直訳すると「天命」という意味で、神から与えられた使命と捉えることができます。ミッション、ビジョン、バリューの考え方は欧米が発信者で、神との契約として個人の天命(ミッション)を果たすことが生きる意味であると捉えるキリスト教=ミッション系の考え方がベース。つまり、仏教がその精神性のベースにあり、あまり信仰心の篤くない多くの日本人にとってはやや馴染みにくい価値観ではないでしょうか。
こうした背景から、多くの企業ではミッションを社会や顧客と自社との関係を定義するものと捉え、「自社が顧客や社会に果たすべきこと」をミッションとして掲げるケースが多いようです。それに対してビジョンとはどのようなものでしょう?ビジョン=Visionとは、その言葉通り、「ありありと見えるもの」「つくりあげたい世界観」。Visionの語源がViewであることを思い起こすと、その理解が早まるのではないかと思います。そのため、ビジョンは自社が創りたい世界や創りたい社会・サービスなどを描き出すことが大半です。
ミッションを社会や顧客に対しての約束やスタンスの表明としてつくり、ビジョンを自社が創りたい世界観として描くことで、企業が向かうべき方向が2つの観点から、より鮮やかになっていくのです。
バリューの意味とは?
ミッション ビジョンと少し異なる性格を持つのが、バリューです。英語にするとValue=価値と考えることができます。しかし、バクッと価値と捉えてしまうと、ミッションもビジョンも企業価値を体現するもののはずなのにと、混乱した気持ちになってしまうもの。そこで、バリューに関しては、ミッション ビジョンを実現するための「自社の価値=行動のスタンスや指針」として捉えると、すっきりと整理することができるでしょう。バリューは、どちらかというと、ミッション ビジョンを下支えするための「価値感や姿勢」であるため、“誠実に“、”常に創造的に“などといった、まさにその企業が成果を出すための姿勢を具体的に書き出す企業がほとんどです。つまり、改めて、ミッション、ビジョン、バリューの3つを整理し直すことで、企業が社会にどのような価値を発揮し、どのような未来を(世界を)つくり、そのために具体的にどんなアクションを(価値ある行動を)示すのかが、社内外に宣言できる状態になるのです。
MVVと経営理念や社是との違い
MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)と経営理念や社是との関係は、非常に近く、どちらかというと歴史を経ながら、企業経営の軸となる考え方を洗練させ、グローバルで見てもわかりやすい形に整え直したものが、MVVということができるでしょう。歴史ある日本企業の多くが創業時や創業者の言葉として「社是」や「信念」というものを持っており、大切にしています。その活用度合いや社員への浸透度は企業によってばらつきがあるものの、その言葉を残し、重要な会議や年初の挨拶などで掲げる企業は多いのではないでしょうか。このように、もともと、何らか理念と言えるものを大切にしてきた企業の場合は、その理念を時代に合わせてミッション、ビジョン、バリューとして整理し統合するのか、社是や経営理念は残したまま、新たにミッション、ビジョン、バリューを開発し、古い社是などと共に、その関係性を整理し直すケースなどがあります。この判断も企業により、その事業ステージや経営者の考え方によって異なるものの、大きな意味では企業の根幹に関わる考え方をまとめたものとして、同じような役割を果たすものと理解して良いと考えます。
消費財などでは、永く愛され購入される商品を育てることにつながる
その商品・サービスを使うことへの憧れを喚起でき、高い利益を生み出すこともできる
BtoBビジネスでは、「このサービス=○社」と言う存在になることで問い合わせ等が増える
企業姿勢に共感する個人投資家が増え株価などによい影響が生まれる
優れたブランディングイメージを獲得することで社会的信用が増し、ビジネスによい影響が生まれる
優れたブランディングイメージによって金融機関等からの理解が高まり資金調達に好影響が生まれる
魅力あるブランディングイメージによって採用活動にもよい影響が生まれ優秀人材が集まりやすい、人気企業としてランクインする
企業活動への理解者が増えることで、社会的な信用が高まり様々な活動への支援・応援が得られやすくなる。
MVVを作成する目的
ミッション、ビジョン、バリューを作成する目的は、企業が進む方向性を社内外に明らかにすることで、まず企業自身が自社の果たすべき役割を再認識し、経営の方向性がよりシャープに明確になる、経営スピードが早まることを狙いとしています。
同様に、株主やステークホルダーに自社が目指す姿を表明するためにミッション、ビジョン、バリューを構築、再整理するケースもあります。
さらに、社員や従業員への経営メッセージを明確化するためにミッション、ビジョン、バリューを構築するケースもあります。こうしたケースでは、通常の経営からのメッセージが売上や利益目標、市場シェアなど数値中心になってしまい、従業員のモチベーションが上がらない、働く意味や仕事の魅力が読み解けず、結果的に業績が下がってしまう、離職などが相次ぐなどの課題がある場合にも、ミッション、ビジョン、バリューの見直しから自社のあり方を再検討するケースが見受けられます。
ミッション、ビジョン、バリューを作成する目的とは
顧客との永く安定的で良好な関係を築くため
ステークホルダーとの永く良好な関係を築くため
商品やサービスの背景にある企業としての思想・価値観を通して長期的な関係を築くため
社会貢献性の高い企業、視座の高い企業と認識され企業イメージを向上させるため
企業の方向性が明らかにし、自社に合う優秀人材の採用を行いやすくするため
企業活動に共感・期待する個人投資家を増やしていくため
企業活動への理解が深まり社会的信用を増大していくため
従業員の満足度を上げ、何のために働くかなど仕事へのモチベーションをアップさせるため
MVVの作成や見直しで得られる効果・メリット
ミッション、ビジョン、バリューの作成や見直しで得られる効果は、まずは自社の社員に対して企業の目指す方向が明らかになりエンゲージメントが向上することです。MVVの内容を把握して、自分の行動の正しさに自信を持つ社員もいれば、行動を改善せねばと気づく社員もいるはずです。また、MVVの構築と合わせて評価基準などを作り直す企業もあります。これは、社員へのメッセージとして非常に明確である一方、後戻りの利かないリスクも孕んでいます。それに対して、MVVの浸透を工夫することで、緩やかに社員に気づきを与え徐々に、理念行動が加速していくなどの効果を狙うこともできます。
ミッションやビジョンを明示する、もう一つの効果は、顧客や社会に対しての「明確な宣言」になることです。自らの価値を明言することで企業自身も後戻りできなくなり、必ずそのビジョンを叶えると強い意思を持つことができます。もちろん、顧客からの期待も高まるために、顧客自身がMVVの監視役であり応援者となり、その実現を加速させる環境を作ることができるのです。
MVVを構築するメリットとしては他に、商品やサービスのレベルアップが挙げられます。商品開発の際に、「この商品はMVVにかなっているのか」とチーム内で検証が進むほか、社員が迷った時の指標にもなります。特に消費財などではその効果は明確であり、このMVVと商品・サービスの体験が、企業のブランディングとして「ファン形成」や「信頼の獲得」につながっていきます。
また、MVVを整理することで、その理念に共感する投資家や提携先企業が集まりやすくなり、資金調達や事業の発展が行いやすくなっていきます。
同様に、採用においても、MVVを確認して、同業と比較し、自分の思いに近い企業を第一志望にする。商品やサービス、一般的な企業イメージなどの表層ではわからない、企業の意志に気づき、活躍しやすい人材が集まるなどのメリットが生まれます。
企業の姿勢への理解・共鳴が進むことで、支援者が増える
ミッション、ビジョン、バリューを構築するメリットは、提供する商品やサービス、事業だけでは伝えきれない企業の姿勢や考え方が伝わることです。たとえば、その商品を愛用する顧客が、ある時、企業サイトなどを閲覧した際に「ここまで、使い手のことを考えて商品を作っているのだな」と感銘を受けたり「このサービスを使うことで、この企業が目指す“社会”に共鳴した」などと感じ、競合ではなくずっとこの商品を愛用したい、と感じてくれることがあります。また、BtoB企業であっても、ある提案やサービスを受けた取引先が、「どんな姿勢なのだろう?」とネット検索を行った際に、「視座が高く、大きな志を持っている」と感じ経営に提案を挙げやすくなったり、「いつも、丁寧に説明してくれるのは、こんなビジョンやバリューが設定されているからだな」と信頼感を感じてくれるなどの効果が想定できます。こうした活動は、非常に地道である反面、じわじわと多くの人に伝わり、いつしか不動の信頼感や一定の企業イメージを獲得することにも繋がっていくのです。
価値観に共鳴する、提携先が増える
MVVの明確化により、その企業の考え方や価値観に共鳴する企業が増えることで、同じような価値観を持つ企業からの支援も集まりやすくなります。自社のサービスとの提携先を探している企業が、幾つもの選定先の中からサービスやビジネスモデルの背景にある考え方を把握することで信頼感やシンパシーが増していき、話が纏まりやすくなるなどのメリットが考えられます。この傾向は、特にBtoB企業の方が効果を感じやすいでしょう。なぜなら、BtoB企業の多くが認知度に乏しく、その企業の実態や考え方を知る機会が少ないからです。外からは似て見えてしまう、多彩なサービスの裏にある思いを知ることで安心してパートナー関係に踏み込みやすくなるのです。
個人投資家からの共感が進み株価によい影響が生まれる
企業が、自社のミッションやビジョンを表明するメリットは、取引のシーンだけではありません。「信念のある企業だ」「サービスの背景にある考え方に共鳴した」といった気持ちを掻き立てることで、個人投資家からの投資を得やすくなるメリットもあります。これはすでに上場を果たしている企業だけでなく、これからIPOを目指す企業などでも意識したい考え方です。BtoB向けのビジネスを行うベンチャー企業などは、どのようにして企業の成長性や将来性を判断すればよいのか、わかりにくいモノです。そこで、しっかりと理念を伝えることで、「先見性がある企業だ」「視野が広くクレバーだ」「ベンチャーだが、環境への意識が高く応援したい」など様々な期待を抱いてもらえ、資金調達の一助となるはずです。また、こうしたMVVの制定と合わせて、サスティナビリティやSDGsなどへの対応の仕方も、サイトなどでしっかり押さえておくことでより安心感や信頼感の高い企業イメージを獲得することができるでしょう。
社会的信用が高まり、企業の成長につながる
MVVの制定で得られる最も大きなメリットは、社会的信用が増大することです。自社が「何のために事業を行っているのか」「社会に何を成し遂げたいのか」「どのような社会課題を解決したいのか」を明示することで、単に売上主義ではない社会性のある企業として認知を獲得することができます。「しっかりとした軸を持ち経営を行う優良企業だ」「ビジョンの捉え方に視界の広さがある」と感じさせることで、ビジネスパートナーとなりうる取引先の経営者や金融機関、ベンチャーキャピタルから着目され、応援されやすくなるというメリット。さらには、「自社と目指す世界が近いからアライアンスを組みたい」といったオファー。同様に、様々なメディアからの取材依頼なども発生し、企業への認知度が高まることで、企業の成長が加速しやすくなります。
採用が成功しやすくなる、就職先として人気が出る
どんな事業を行う会社なのか。社会に役に立つ事業を行っているのか。こうしたことがMVVを通じて多くの人に伝わることで採用活動にも優れた影響が生まれます。受験した学生がMVVを通して、企業に対して深い理解が進み、「この会社=世の中によいことをしている会社」といった良好なイメージが獲得され第一志望としての認識が高まっていくでしょう。それだけではなく、その企業が目指す世界観に共鳴する学生や社会人が「自分の専門性が活かせそうだ」「この会社なら、自分を高めることができる」と応募し、優秀な人材や求めるスキルを持つ人材からの動機付けが高まり、内定辞退率が改善されたり、採用する方のご家族からの支援が受けられたりといったメリットが生まれます。