企業スローガンと、ビジョン・ミッション・バリューや「社是」との関係性
正しく定義することより、覚えやすさや「らしさ」の表現が優先される
ここまで見てきたように、企業スローガンは、「ビジョン・ミッション・バリュー」や、「社是」をそのまま伝えるものではありません。企業のありたい姿や社会に提供したい価値を「端的な言葉かつその企業らしい言い回しでまとめたもの」ですので、企業理念などと比較すると
・短く、覚えやすい
・「らしさ」が感じられる
といったポイントが押さえられています。日立のように、動詞から始まることで勢いを感じさせたり、ニトリのように、ダブルミーニングを活用することで忘れられないフレーズにしたり、表現における高度な工夫がなされています。
社員ではなく「ユーザー」に向けたメッセージである
また企業理念は、第一義として社員に向けて書かれた言葉ですが、企業スローガンはユーザーに向けたものでなければなりません。「私たちはこうですよ」という宣言や、「社会にこれを提供します」という約束を、一般ユーザーに向けてメッセージするために存在します。
企業スローガンが存在することのメリット
ブランディング活動の中で企業スローガンは、企業のロゴや理念とセットで伝えられ、その企業の「顔」となっていく。とお伝えしました。スローガンが存在すると、ブランディングにおいて様々なメリットがあります。
ビジョンには、「可動性」=可動の量と質を上げ、人だけでなく企業や自治体など大きな規模の集団が「できること」を増やす、とあります。車という方法論に限らず「可動」によって、人と地球の共生を実現しながら、より良い未来を作っていくことを宣言しています。ミッションは、人の幸せについて「考え」、それを「量産する」という、具体的な行動を促す内容になっています。また、バリューの「トヨタウェイ」には、人(社員)と装置とパートナーを大切に、というトヨタ独自の価値観・カルチャーについて書かれています。
企業そのもの、商品・サービスの認知度向上
企業スローガンは、企業名やロゴとセットになることで、そのブランドを覚えやすく・また思い出しやすくする効果があります。企業スローガンをうまく制作できれば、企業そのものや、商品・サービスの認知度向上や、想起率のUPに繋がります。
コアコンセプト・メッセージの明確化
顧客や社会に対し、企業の基本的な価値観や目指す方向を端的に表現し、伝えることができます。「何がしたいのか」が明確だと、その企業にとって正しい顧客にメッセージが伝わり、適切な購買層を形成できます。
差別化の促進
コアコンセプトを明確にした企業スローガンが制作できると、競合企業との差別化が可能になります。企業スローガンが機能することで、マーケティング戦略上のメリットに繋がります。
感情的な結びつきや愛着の形成
その企業「らしさ」が表現され、生活者の感情に訴えかける企業スローガンは、感情的な結びつきを生みます。「便利だから買う」から、「好きだから買う」といった愛着を生み、ユーザーのファン化を促進します。
マーケティング活動の一貫性
企業スローガンは、企業広告や製品のコマーシャルなど、マーケティングのさまざまな面で使用でき、メッセージに一貫性のある効果的なプロモーション活動に繋がります。
インナーブランディングの形成と強化
企業スローガンは社内向けにも有効です。従業員に企業理念をあらためて伝え、一体感を醸成するのに役立ちます。インナーブランディングが成功すれば、組織全体の生産性や士気向上にも繋がります。
企業スローガンの一般的な作り方
企業スローガンは、ブランディング構築の一環で策定される
では、企業スローガンはどのように制作すれば良いのでしょうか。
企業スローガンの策定は、一般的には企業ブランディング構築の中で実施されます。企業ブランディングの進め方には、「戦略策定」フェーズと、「クリエイティブ企画」フェーズがあります。以下の1〜4が「戦略策定」、5〜8が「クリエティブ企画」です。スローガンは「クリエイティブ企画」の方に属するため、そちらの説明をより丁寧に行います。
1. 自社の独自性を内部分析で発見
自社の強み・独自性を見つけ出すために、まず内部分析を行います。3C分析(顧客・競合・自社)などのフレームワークを活用し、社内だけでなく外部の専門家の視点も取り入れることで、客観的に自社の魅力や価値を発見します。
2. 独自性について外部環境分析で検証
内部分析で見いだした独自性が、将来も機能し続けるかを外部環境分析(例えばPEST分析など)で検証します。政治、経済、社会、技術など様々な観点から市場の変化を分析し、自社が導き出した優位性が未来においても機能するかを検証します。
3. ブランディングコアを引いた視点で検証
1、2を経て「ブランディングコア」と言えるものが見えてきますが、少し引いた目で確認することも大切です。あらためて社員や経営陣が魅力を感じ、共感できるものでなければなりません。さらに、経営戦略との整合性を持ち、将来の事業範囲を狭めすぎないことも重要です。
4. ブランドの耐用年数を検証
ブランドの耐用年数は企業の変化スピードに合わせて設定します。中堅・中小企業なら15年から20年程度、テクノロジー企業やスタートアップのように変化が激しい分野では10年程度が目安とされています。長期レンジを見据えすぎると一般論になりすぎるリスクがあります。
5.ブランディングイメージの根幹を開発する
内部環境分析・外部環境分析を行い、ブランディングコアが見えてきたら、次はクリエイティブを企画します。このフェーズでは、優位性の高い特徴や業界内で先進的な内容、自社が意志を持って表明したい内容などに、コアコンセプトすなわちWhat(何を言うか)を設計していきます。ちなみに、このプロセスはきちんとクリエイティブの経験を積んだプロフェッショナルと相談することが成功につながります。
また、Who(ターゲット)を戦略的に設定し、コンセプトを明確化することも重要です。
6. 企業の「らしさ」トーン&マナーを設計する
クリエイティブ制作の設計図ともいえるのが、トーン&マナー(世界観)の設計です。トーンとは色や音の微妙な違い、マナーとは作法やルールを指します。つまり、企業が発信したい「雰囲気」を定義するものです。
日立が「Inspire the Next」の「Next」の右上に赤く伸びるラインを入れることで、フレッシュさや伸びやかさを表現したように、「どんな企業に見られたいか」について、「どんな風にメッセージするか」で設計していくものと言えます。
7. スローガンとビジュアルを策定する
コアコンセプトとトーン&マナーが決まり、ここでやっと、その企業を体現したスローガンやビジュアルを開発します。
ここまで見てきたように、スローガンは非常に難易度の高い言葉選びを必要としています。経験豊富なコピーライターの支援を仰ぎましょう。また、言葉だけでなくビジュアル(映像含む)の開発も重要で、年齢層を問わず想いを届けられるよう両者をセットで用意するのが得策です。